酛(もと)とは

  お酒の主成分であるアルコールは、酵母の発酵によって生成されますが、この酵母を大量に純粋培養する工程が「酛」です。酒造りの“もと”になることから酛、また、お酒の母という意味合いから「酒母(しゅぼ)」とも言います。

よい酛が揃える3つの条件とは?

(1)目的とする優良な清酒酵母が多量に純粋培養されていて、雑菌、野生酵母が含まれていないこと
(2)有害菌の繁殖を抑えるために乳酸を必要量含んでいること
(3)使用するときに酵母が正常な発酵に適した活性を持っていること

生酛系酒母と速醸系酒母の違い

酒母には大きく分けて、生酛系酒母と速醸系酒母の2種類があります。その違いとはどのようなものでしょうか?

生酛系酒母(生酛、山廃酛など)
 乳酸菌の力を借りて乳酸を生成し、手間と時間をかけて力強い優良な酵母だけを純粋に育て上げる方法です。仕込みか
ら熟成まで約3週間かかります。

速醸系酒母(速醸酛、高温糖化酛など)
 名前の示す通り手間を簡略化し、乳酸を添加して短期間で造られる酒母。速醸もとは約10日間、高温糖化もとは約1週間で仕上がります。

生酛系酒母で育った酵母の特徴

 高濃度のアルコール環境下では酵母は弱ってしまいますが、生酛で育った酵母はアルコールに対して強くなります(図1)。また、生酛で育った酵母は醪での発酵は穏やかだが、末期まで発酵力を維持するため、糖分を消費し、できあがったお酒は辛口の酒質となります。さらに、醪末期でも死なないため、菌体内から漏出する成分が少なく、きれいな酒質となります。

fig1

 それでは、なぜ生酛で育った酵母はアルコールに強くなるのでしょう?

 生酛では酵母の生育に先立ち乳酸菌が生育します。乳酸菌は米に由来する主要な脂肪酸であるパルミチン酸とリノール酸のうち、リノール酸を優先的に消費します。そのような環境で酵母が育つと、パルミチン酸を豊富に含んだ酵母となります。一方、速醸酛では乳酸菌の増殖はなく、仕込み時に乳酸を添加します。したがって、酵母はリノール酸とパルミチン酸の両方を取り込むことになります(図2)。この酵母の脂肪酸組成の違いがアルコール耐性に影響していることがわかってきました。パルミチン酸を豊富に含む酵母はアルコールに負けない強い酵母となるのです。

fig2

「清酒醸造にみられる酵母のエタノール耐性獲得機構」という研究テーマで菊正宗酒造(株)総合研究所 溝口晴彦が平成99月に(社)日本生物工学会「江田賞」を受賞しました。

<参考文献>
溝口晴彦:生物工学会誌, 76, (3), 122-130 (1998)