| 第1回 生もとづくりが日本酒の品質に及ぼす影響<各節のまとめ> |
第1 節 速醸もとにおいてアミノ酸が少ない原因
速醸もとの上清には、強い酸性カルボキシペプチダーゼ(ACP )活性と、大量のペプチドが存在するにもかかわらず、遊離のアミノ酸の生成量は少なかった。何故これらのペプチドがACPによって分解されにくいのか、その理由を明らかにするために速醸もとに含まれるペプチドの性質について検討を行った。イオン交換カラムクロマトグラフィーにより速醸もとよりペプチドを分画してACPを作 用させたところ、このペプチドは米麹のACP によって分解を受けにくかった。ゲルろ過クロマトグラフィーにより速醸もとのペプチドの分子量分布を調べたところ、分子量は約 200 〜400 、またペプチドの鎖長は約2 〜3であり、低分子のペプチドが主成分であった。 米麹からACP を精製し種々の合成ペプチドに作用させたところ、米麹のACPはジペプチドやトリペプチドなどの低分子のペプチドを分解しにくいことが判った。また米麹より酸性プロテアーゼ(AP )を精製し、酸性条件下(速醸もとと同じpH 3.6 )で15℃、48 時間、米蛋白に作用させたところ、分子量約300 〜600 以上のペプチドが主に生成し、APとACP を同時に作用させると分子量約200 〜400 のペプチドが生成した。 以上のように、速醸もとではpHが低いために、麹菌のAPの作用により米蛋白から低分子のペプチドが生成し、しかも麹菌のACPは低分子ペプチドを分解しにくい性質を持つため、アミノ酸の生成速度が遅いことを明らかにした。
第2 節 生もとにおけるアミノ酸の増加原因
次に何故、生もとにおいては速醸もとの約3 倍もの多くのアミノ酸が生成するのか検討した。その結果 、生もとの仕込み後7 〜10 日目において、蒸米蛋白からTCA不溶性蛋白が多量に溶出することを見出した。この蛋白は、生もとに特異的に現れる蛋白であり、速醸もとや清酒醪では全く認められなかった。この蛋白を生もとの上清より分画して麹の酵素を作用させたところ多量の遊離のアミノ酸を生成したことから、この蛋白は生もとにおける多量のアミノ酸の生成と関連があると推定した。さらにこの蛋白が何故生もとにおいてのみ生成するのか、その生成機構について検討を行った。その結果、このTCA 不溶性蛋白を米蛋白から反応液上清に溶出させるには、 麹の酵素が必要であった。このTCA不溶性蛋白を米蛋白から反応液上清に溶出させる酵素を米麹から精製したところ、麹の酸性プロテアーゼと同一の酵素であると推定した。また、このTCA不溶性蛋白を米蛋白から反応液上清に溶出させるには、反応液中に高濃度(約20%以上)のグルコースの存在が必須であった。さらにこのTCA 不溶性蛋白は、pH4.5 前後の限られたpH条件下においてのみ、米蛋白より反応液上清に溶出し、速醸もとのpHであるpH3.5 では全く生成しないことが判明した。
第3 節 酒母の種類が清酒のペプチド量に及ぼす影響
生もとと速醸もとにおけるアミノ酸量の違いが、主醪におけるアミノ酸量とペプチド量に及ぼす影響について検討を行ったところ、生もとで製造した清酒醪のペプチド量は、速醸もとを用いて製造した清酒醪のペプチド量より多いことを見出した。さらに、その原因について検討を行ったところ酵母のペプチド取り込み能が、生もとから持ち込まれた高濃度のアミノ酸によって抑制されるためであると推定した。
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