樽酒と和食は相性が良い?

 江戸時代から昭和の初期までは清酒の保存や輸送のための容器として主に杉樽が使用されていました。つまり、ほとんどの清酒が一度は杉樽に貯蔵された樽酒だったわけです。そこで、長い間親しまれてきた樽酒と日本人が愛する和食の相性について調べるために、和食にとって重要な要素のひとつである旨味に焦点を当てて調べてみました。

樽酒が食品の旨味に及ぼす影響 ~官能試験~

 樽酒が食品の旨味に対してなんらかの影響を与えているのではないかと考え、強い旨味が感じられる、あさりの酒蒸しの汁を飲んだ後に樽詰めしていない清酒(対照酒)または樽詰めした清酒(樽酒)を飲んでもらい、その後の旨味の感覚強度を5段階で評価してもらいました。その結果、清酒飲用5秒後、10秒後では対照酒に比べて樽酒では旨味強度が高くなっていました。この結果から、樽酒には食品の旨味を強く、長く感じさせる効果があると考えられます。

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樽酒が食品の旨味に及ぼす影響 ~味認識装置による分析~

 樽酒が旨味を強くする効果について詳しく調べるために、客観的な味の評価をすることができる、味認識装置(インテリジェントセンサーテクノロジー社製)を用いて、樽酒と様々な食品の旨味との関係を調べました。試験は我々人間が食品を口にした後にお酒を飲む場面を想定して、味認識装置のセンサー(人間の舌に相当)を食品に浸した後にお酒に浸し、そのあとに残った旨味の強さ(旨味後味)を測定することで行いました。

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味認識装置による測定方法

 この方法で食品サンプルとしてあさりの酒蒸しの汁を用いた試験を行った結果、対照酒に比べて樽酒では旨味後味が有意に強くなっており、官能試験の結果と一致しました。同様の方法でそばつゆ、うなぎのかば焼き、まぐろの刺身についても試験を行った結果、あさりの酒蒸しでの結果と同様に、対照酒に比べて樽酒で旨味後味が有意に強くなることが確認されました。
 樽酒による食品の旨味後味増強効果は主に魚介類に対して示され、杉樽由来の成分によるものであることが分かっています。

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<参考文献>
高尾佳史、高橋俊成、藤田晃子、松丸克己、溝口晴彦:醸協, 110, (1), 48-55 (2015)