全く新しい酵母”キクマサHA14酵母”

 キクマサHA14酵母は、低精白米仕込みにおいても吟醸香の主成分であるカプロン酸エチル(リンゴ様の香り)と酢酸イソアミル(バナナ様の香り)を高生産する酵母を育種する、という目標のもと育種された酵母です。吟醸酒では高精白した白米を原料とするため、米に含まれる旨み成分が少なくなり、できあがったお酒はすっきりとした味わいの酒質となります。一方、キクマサHA14酵母を用いることで、本来の米の旨みを残しながら吟醸香成分を高含有する純米酒香醸を開発することに成功しました。

”キクマサHA14酵母”取得への道のり

 カプロン酸エチルと酢酸イソアミルを高生産する株を一度に取得することは、困難な道のりであると思われました。そこで、まずは低精白米仕込みでも酢酸イソアミルを高生産する酵母を育種することを目指しました。吟醸酒によく用いられるきょうかい9号酵母に変異処理をほどこし、酵母の生育を阻害する様々な薬剤に対して耐性を持つ株を選抜したところ、オーレオバシジンAという薬剤に耐性を示す酵母変異株の中に酢酸イソアミルを高生産する酵母が含まれることが分かりました。

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図1 酢酸イソアミル量の比較

 次にカプロン酸エチルを高生産させるために、酢酸イソアミルを高生産する酵母に変異処理を施し、セルレニンという薬剤に耐性を示す酵母変異株を取得しました。これらの酵母変異株を用いて清酒醸造を行ったところ、酢酸イソアミルに加えカプロン酸エチルも高生産するHA-14株が含まれていることを見つけ出しました。

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図2 キクマサHA14酵母でのカプロン酸量の増加

 このHA-14株を用いて醸造蔵での実生産テストを行ったところ、精米歩合70%の白米を原料とした仕込みにおいて、吟醸酒並みのカプロン酸エチル濃度と通常の吟醸酒よりも顕著に増加した酢酸イソアミル濃度を確認することができました。さらに、お米の旨味も十分に残っていることが確認されました。

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図3 香醸ではカプロン酸エチルと旨味が増大している

<参考文献>
大原佑介、高橋俊成、末野和男:平成27年度日本醸造学会大会講演要旨集(2015)