免疫調節作用とは?

当研究所では、1990年頃より生酛で生育してくる乳酸菌の分離を行っています。乳酸菌といえば、プロバイオティクスが有名です。プロバイオティクスとは「腸内フローラバランスを改善することにより宿主に有益に働く生菌添加物」と定義されていますが、最近では、「直接あるいは腸内フローラを介して、免疫賦活、コレステロール低下作用、血圧降下作用、整腸作用、抗腫瘍効果、抗血栓・造血作用などの生体調節、生体防御、疾病予防・回復、老化制御等に働く食品成分」としてバイオジェニックスという考え方も広まっています。そこで、我々の研究グループは生酛で生育してくる乳酸菌のなかにバイオジェニックスとして利用できる乳酸菌がいないか調べることにし、免疫調節作用の高い乳酸菌を選び出すことにしました。  花粉症などのアレルギーを発症する人では、免疫反応を調節するヘルパーT細胞であるTh1とTh2という細胞の比率がTh2側に傾いています。この状態ではB細胞を活性化させてしまい、IgE抗体の産生を促進し、その結果マスト細胞からの各種化学伝達物質が放出されるためアレルギー症状を引き起こすと推定されています。一方、乳酸菌はマクロファージに作用し、インターロイキン-12(IL-12)の産生を促進することによりTh1/Th2バランスを正常な状態に保つ働きがあると考えられています(第1図)。

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図1 アレルギー発症メカニズム

生酛乳酸菌の免疫調節作用(細胞での試験)

 そこで菊正宗酒造()嘉宝蔵の生酛より分離した乳酸菌Leuconostoc. mesenteroides 9, Lactobacillus. sakei 8株の加熱死滅菌体を用いてマウス由来マクロファージ様細胞株J774.1に刺激を与えたときのIL-12産生能を調べたところ、試験に供した乳酸菌17菌株全てにおいて、乳酸菌の刺激を与えないときに比べ、IL-12産生能が増加することが明らかとなりました(第2図)。

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図2 生乳酸菌のIL-12産生促進作用

生酛乳酸菌の免疫調節作用(マウスでの試験)

 次に、免疫調節作用が高いと考えられた乳酸菌L. mesenteroides LK-103および L. sakei LK-117 127 133 1415菌株について、マウスを用いてアレルギーモデルである受動皮膚アナフィラキシー反応に対する抑制作用を調べることにしました。マウスに乳酸菌の加熱死滅菌体を11回、4日間強制経口投与を行いました。その後、マウスにアレルギー反応を起させ、耳の腫れが乳酸菌体を投与することにより軽減されるか調べたところ、LK-141株を除いた4株において有意に耳の腫れが抑制され、その効果はL. sakei LK-117株で最も高いことがわかりました(第3図)。

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図3 生乳酸菌の抗アレルギー作用

 以上の結果より、生酛乳酸菌のバイオジェニックスとしての有効性が示され、今後さらなる研究の発展が期待されます。現在はL. sakei LK-117株に着目し、免疫調節作用に関する詳細な研究を行っています。

<参考文献>
Y. masuda et al.: J. Biosci. Bioeng., 112, 363-368 (2011)
Y. masuda et al.: J. Biosci. Bioeng., 114, 292-296 (2012)