乳酸菌の健康への効果

 乳酸菌とは、糖を発酵して乳酸を多量に生産する微生物の総称です。乳酸菌は古くからヨーグルトやチーズの製造に使われており、日本でも漬物や味噌など乳酸菌を利用した発酵食品が数多く存在します。やがて、乳酸菌は発酵食品を製造するほかに我々の健康維持へも関わっているという理論が提唱されました。これが発展し、現在では「プロバイオティクス」の考え方が認知されています。乳酸菌には整腸作用、抗アレルギー作用に加えて腸内細菌バランスを整える働きがあるとされ、盛んに研究されています。

乳酸菌は皮膚にイイ影響を及ぼす?

 乳酸菌の菌体や菌体の成分が皮膚に作用して、抗炎症効果や細菌の感染抑制効果を示すことが近年報告されています。そして菌体成分だけでなく、乳酸菌を用いた発酵液が皮膚に対して有効であるという報告も以前からなされています。乳酸菌発酵液の効果としては保湿作用、抗酸化作用、抗菌作用、美白作用、抗炎症作用などが知られていますが、菊正宗では酒造りにおいて活躍する乳酸菌が皮膚に及ぼす影響を研究してきました。

菊正宗の酒造りと乳酸菌の関係

 酒造りの醪(もろみ)では、米のデンプンが麹菌由来の酵素によって糖化され、これを原料として清酒酵母がアルコールをつくります。このとき働く清酒酵母の培養方法は各酒造メーカーによって様々ですが、菊正宗では江戸時代から伝わる「生酛(きもと)」という方法で清酒酵母を培養しています。この方法では米と米麹、水を混ぜあわせて低温で数日置いたときに増殖する乳酸菌が乳酸を生成し、この乳酸によって酒造りにとって有害な雑菌の生育を抑えることができるので、清酒酵母だけを純粋培養できます。生もとで生育する乳酸菌はLeuconostoc mesenteroidesLactobacillus sakei2種類が知られています。
 まず正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)に対する抗炎症効果を最も抑制する生もと乳酸菌を選抜し、L. esenteroides LK-16と名付けました。このLK-16株を用いて米発酵液を作成し、ヒトの皮膚細胞に及ぼす影響を調べました。

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図1 皮膚の構造

LK-16の皮膚への効果

 肌の水分保持や弾力性を保つのに必要なヒアルロン酸は表皮細胞と線維芽細胞で生成されますが、加齢とともに皮膚中のヒアルロン酸量は減少していくことが知られています。そこで、培養したNHEKおよび正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)に米発酵液を添加して生成したヒアルロン酸量を測定したところ、米発酵液を5%添加することで有意にヒアルロン酸産生量が増加していることが確認できました。

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図2 ヒアルロン酸産生量

 次に、ヒトの皮膚に米発酵液を長期的に塗布した際の効果を調べました。20代の健康な女性8名を対象として、5%米発酵液と対照である水を12回、4週間にわたって塗布してもらい、角質水分含量と肌のキメを評価しました。すると5%米発酵液を塗布した部位では試験期間とともに角質水分含量が増加し、肌キメが整っている面積が増加しました。

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図3 皮膚のキメへの影響

 以上のような効果から、LK-16の米発酵液は機能性化粧品素材としての利用が期待されます。

<参考文献>
近藤紗代ら:FRAGRANCE JOURNAL, 5, 22-27 (2014)