生き物の体を作るタンパク質を構成するアミノ酸は、大部分が「L体」と呼ばれる形のものです。一方でL体のアミノ酸(L-アミノ酸)を鏡に移したような「D体」の形のD-アミノ酸も少ないながらも存在していることが分かっています。
D-アミノ酸は日本酒の中にも含まれています。全国の様々な日本酒に含まれるD-アミノ酸の量を分析したところ、「生酛造り」の日本酒にはD-アミノ酸が多く含まれていることが分かりました。速醸酛には存在しない、生酛酒母ならではの乳酸菌がD-アミノ酸を作るのではないかと言われています。
当社の生酛酒母の中には桿菌(L. sakei)と球菌(L. mesenteroides)の2種類の乳酸菌がいます。これらの乳酸菌を何株も酒母から分離し、米の糖化液中で培養したところ、D-アミノ酸を特に多く作るものが存在することが分かりました。同種の乳酸菌であってもD-アミノ酸を作る能力にはバリエーションがあるようです。
この中からD-アミノ酸を特に多く作る乳酸菌を桿菌(LK-145)、球菌(LK-151)それぞれ1株ずつ選抜し、それらを使って実際に生酛酒母、そして日本酒を造りました。D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-アラニンの3つのD-アミノ酸の含量を調べると、LK-145とLK-151を用いた生酛酒母とお酒には、速醸酛や他の乳酸菌を用いたものよりも多く含まれていることが分かりました(図3、図4)。