杉樽由来成分について

 樽酒には通常の清酒には含まれていない、杉樽由来成分が多く含まれています(参照:「樽酒に含まれる成分に関する研究」)。これらの成分によるさわやかな香味が樽酒の一番の特徴となっていますが、これらの成分には食品由来の油を洗い流すことで口の中をさっぱりさせる効果や、魚介類由来の旨味を強くする働きもあることが明らかになっています(参照:「樽酒と油に関する研究」「樽酒と旨味に関する研究」)。このほかにも杉樽由来成分にはさまざまな機能性があることが明らかになっています。

杉樽由来成分の抗酸化活性と消臭活性

 杉樽由来成分のうちノルリグナン類のセキリンCやアガサレジノールには抗酸化活性があることが明らかになっています(図11)。これらの成分にはこのほかにもアリルメルカプタン(にんにく摂取後の悪臭成分)に対する消臭活性があることもわかっています1)

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図1 杉樽由来成分の抗酸化活性

杉樽由来成分の抗菌性

 杉樽由来成分であるセスキテルペン類やジテルペン類の一部では微生物に対する抗菌性があることが分かっています。清酒中では清酒に濁りや酸味を与えて劣化させる火落菌が増殖することが知られていますが、樽酒中のδ-カジネンやエピクベノール、β-オイデスモール(セスキテルペン類)、サンダラコピマリノールやフェルギノール(ジテルペン類)には火落菌の増殖を抑える働きがあることが明らかになっています(図22, 3)

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図2 杉樽由来成分の火落菌(L. fructiborans)に対する抗菌性

杉樽由来成分のその他の機能性

 杉樽由来成分として多く含まれるものにセスキテルペン類があげられますが、その中でもβ-オイデスモールは漢方薬の蒼朮の主成分でもあり、多くの研究成果が知られています。β-オイデスモールは胃酸の分泌を抑制することで潰瘍の進行を抑えること4)、経口投与することにより、精神的ストレス負荷時に交感神経の興奮を抑制する効果があること5)などが報告されています。さらに、β-オイデスモールは冷感受容チャネルTRPA1を活性化する効果があるため、低濃度でも主にのどに対して冷涼感を与えること6)も報告されています。

<参考文献>
 1) 松永恒司ら:醸協, 99 (8), 585-590 (2004)
 2)
松永恒司ら:醸協, 103 (10), 779-785 (2008)
 
3) 高尾佳史ら:醸協, 107 (11), 868-874 (2012)
 4) M. Nogami et al.: Chem. Pharm. Bull., 34, 3854 (1986)
 
5)
小原一朗ら:日本農芸化学会2013年度大会講演要旨集, 2101 (2013)
 6) 小原一朗: Aroma Res., 51, 240 (2012)