清酒醸造にみられる酵母のエタノール耐性獲得機構
総合論文
(平成9年度 日本生物工学会江田賞授賞)

溝口 晴彦
菊正宗酒造(株)総合研究所

Acquisition of Ethanol Tolerance by Saccharomyces cerevisiae in the Sake Brewing Process and the Tolerance Determinants −Monograph−
HARUHIKO MIZOGUCHI
General Research Laboratory, Kiku-Masamune Sake Brewing Co. Ltd.

はじめに

 多くのアルコール発酵がsingle-stage batch processで行われているなかで,清酒醸造においては,段仕込と並行複発酵という特徴的な発酵形式が取られ,エタノール濃度は20%近くに達する.したがって,酵母のエタノール耐性を検討する上で優れた実験対象と考えられる.特に,生もと系酒母は,現在汎用されている速醸もと系酒母に比べて,長期保存における酵母の生存率が高く,生もとで仕込んだ醪は発酵は穏やかだが,醪末期までよく発酵するということが経験的に知られている.1)しかしながら,その要因は未解明で,むしろ謎めいてとらえられている感がある.

  他方,微生物に対するエタノールの作用標的については,さまざまの報告がされているが,2)なかでもエタノール耐性におよぼす細胞膜の役割の重要性が認識されている.3,4)清酒醸造においても,醪末期にみられる細胞成分の漏出は,清酒の品質を左右するため,細胞膜の半透膜性バリアーとしての安定性は,エタノール耐性を考える上での重要なパラメーターである.

  このような背景を踏まえて,清酒醸造過程における酵母の細胞膜構造の調節とエタノール耐性の発現の関連について研究を行ってきた.本総合論文では,清酒醸造にみられる酵母のエタノール耐性獲得機作を,膜構造を中心にして以下の項目にまとめることにした.

1. 生もと酵母の脂質特性,
2. リン脂質脂肪酸組成と膜透過性,
3. エタノール存在下における増殖の影響


文字の表記について「生(きもと)づくり」(もと)」という漢字は、酒造用語に使われる特殊な文字で、パソコンの表示フォントに含まれていませんので、このコーナーでは、特別な場合を除き、ひらがなで「もと」と表記させていただきます。

博士課程へ
[おいしさの秘密は生もとづくり]へ戻る
トップメニューへ

お酒は20歳になってから。 お酒はおいしく適量を。
Copyright(C)Kiku-Masamune Sake Brewing Co., Ltd. 1999-2003 All rights reserved.