第1巻 日本酒の作り方

「一麹、二酛、三造り」といわれるように、酒造りで最も大切なものの一つが麹(こうじ)です。

麹はカビの一種である黄麹菌(きこうじきん)を蒸米の表面から中心部分へと繁殖させたもので、デンプン分解酵素、タンパク分解酵素、脂肪分解酵素など、様々な酵素の供給源として用いますが、特に重要なのはデンプン分解酵素であるアミラーゼで、米のデンプンを分解しブドウ糖に変える働きを持ちます。そのブドウ糖を清酒酵母が利用してアルコール発酵を行います。

  • 麹のはたらき

  • 清酒酵母

また、麹菌が生育する過程で様々な成分を麹内に蓄えます。これらの成分は醪(もろみ)中に溶け出して、清酒酵母の栄養源となるだけでなく、お酒の旨味成分として酒質に大きな影響を与えます。

麹はまず、約30℃に冷却された蒸米に「もやし」と呼ばれる麹菌の胞子を均一に振りかけ、温度、湿度を最適に調整した麹室(こうじむろ:単に「むろ」ともいう)に取り込みます。

麹菌が繁殖しだすと、自らの発する熱のため、次第に麹の周囲の温度は上昇してきます。このままにしておくと、麹の繁殖が止まってしまうので、「切返し(きりかえし:麹の繁殖した蒸米の堆積を、手でほぐす)」という操作により温度コントロールを行ないます。現在では機械により温度コントロールする自動製麹(じどうせいきく)も行なわれています。

できあがった麹は酒質に大きな影響を与えるため、純白で香りが良く、乾燥していてさばけの良い、ふんわりとした総破精(そうはぜ)※、もしくは突き破精(つきはぜ)※のもので、使用目的に合致した良い品質のものでなければなりません。

  • ※破精(はぜ):麹菌が蒸米に繁殖した状態、広がりを破精まわり、米粒の中心へ菌糸が入り込むのを破精込みという。
  • ※総破精(そうはぜ):米粒全体に破精が回り、かつ破精込みの深いもの。
  • ※突き破精(つきはぜ):米粒表面に斑点状にはぜていて、中心に向かってよく破精込んでいるものをいう。