水と米と麹。このシンプルな素材から、昔ながらの手作業を丹念に重ねて酵母を育て、酒造りのもととなる「酛(酒母)」を完成させる。「生酛造り」は、自然の力と人の叡智の共同作業であり、何百年もの時を経て伝承されてきた酒造りの原点と言える製法です。自然の乳酸菌の力を借りて育った力強い酵母が醸す味わいには、日本酒本来の旨さが息づいています。

冬期の寒造りが定着し、農閑期の農民が杜氏として各地の酒造りを支えるなど、現在の酒造りの基礎が築かれたのは江戸時代。18世紀末、灘の酒が大消費地江戸で「下り酒」として名声を博すようになると同時に、大量に良質の酒をつくる醸造技術が灘の地で丹波杜氏によって確立されていきました。この技こそが、酒造りの原点「生酛造り」です。まだ化学の概念のないこの時代に勘と経験だけで微生物の活動をコントロールし、良質の酒を安定的かつ大量に造るこの技術が、「銘醸地・灘」の名声をとどろかせたといえます。
しかし、この技術の習得には杜氏の力量に頼るところが大きいため、近代に入っても生酛づくりは極めて難しく、せっかくの酒米を腐敗させてしまう蔵も少なくなかったと言います。そのため、明治時代に入り、簡便でリスクの少ない合理的な酒造りの手法(速醸酛)が開発されるや、たちまち日本中に広がりました。かつては、酒造りのすべてが「生酛」の手法でしたが、時代の変遷と共に多くの手間や時間を要するこの酒造りは姿を消していきます。そして今では、千数百の蔵の中のうちわずかな酒蔵でのみで行われる手法となってしまいました。しかし日本酒本来の味わいを求める声と共に、「生酛」への注目が今再び高まりつつあります。
酒造りは、乳酸により雑菌を抑えながら酵母の数を大量に培養する「酒母(酛)」造りから始まります。速醸酛が、酛仕込みの段階に市販の乳酸を添加して手早く酒母を完成させるのに対し、生酛は自然の乳酸菌の力を借りて乳酸を作り出し、速醸酛の約2倍もの時間をかけじっくりと酵母を育てていきます。仕込みの段階から、半切り桶で丹念に蒸米と米麹をすりつぶす山卸しや、有用な微生物の活動を促す為に酛の温度をじんわり高める暖気樽など、江戸の昔から伝わる用具と手順を踏み、25日間もの長い時間をかけて酵母をゆっくりと育ててはじめて、「生酛」は完成するのです。そしてその酒母(生酛)には、雑菌や乳酸菌との激しい生存競争を制した力強い酵母だけが生き残るのです。
この酵母の違いは味の違いを生み出します。通常、酵母の一部は、発酵が進みアルコール濃度が高まると死滅し、「雑味」成分を漏出してしまいます。しかし「生酛」の酵母は強い発酵力を持ち、高濃度のアルコールの中でもたくましく生き続けるのです。このため搾る直前まで糖をアルコールに変え、雑味のないすっきりした辛口でありながらコクがある、生酛特有の味わいが楽しめることとなります。


灘酒の本流である辛口一筋に酒造りを続けてきた菊正宗が「生酛」にこだわるわけは、本物の辛口を追い求めるその姿勢にあります。料理との相性を第一に、飲み飽きしない「辛口酒」を目指してたどり着いた結論が、生酛造りで醸された雑味のない抜群のキレを持った辛口酒だったのです
また、菊正宗の生酛造りの魅力の一つに「押し味」といわれる、しっかりとして幅があり奥行きにも深い味わいが感じられるおいしさがあります。生酛で醸したお酒にはペプチドの比率が明らかに高いという特長があり、このペプチドが「押し味」を演出するのです。
生酛で醸したお酒の飲み方ではとくに燗がおすすめです。温めることでうま味が一層引き立ち、料理が欲しくなります。中でも繊細な素材の味を楽しむ日本料理との相性は抜群。刺身やてんぷらはもちろん、おでんや鍋料理など、温かい料理と一緒にお楽しみください。
菊正宗トップ > 酒の原点 生酛(生もと)Web > 生酛造りとは






