水と米と麹。
酒造りの原点、「生酛造り」

菊正宗の淡麗辛口の酒質を醸し出すのが、本流「生酛造り」。アルコールを造る酵母を育てる「酛」(酒母)を、水と米と米麹から、昔ながらの手作業で4週間かけて造り上げる、酒造りの原点と言える製法です。
しかしながら生酛造りは通常の倍以上の時間と手間がかかり、安定的に行うことも極めて難しいため、全国千数百蔵の中でこれを伝承するのは、菊正宗を含めてわずか数蔵。ほとんどの酒蔵が市販の乳酸と培養酵母を加え、2週間あまりでできる速醸酛に頼る中、手から手へと受け継がれてきた生酛造りの技が今、見直されています。

  • 酒母「酛」造りにかかる日数の比較
  • 生酛と山廃酛の比較

    手間と時間のかかる「山卸し」作業を廃止したものが、
    「山卸し廃止酛」、略して「山廃酛」と呼ばれます。

嘉宝蔵での生酛造りの工程 〜語り:三代目 桂 春蝶〜

伝統の技を今に受け継ぐ。

六甲おろし吹く、年間で最も寒く雑菌の汚染の心配の少ない季節に脈々と受け継がれてきた「寒造り」。
昭和33年、戦争で壊滅した灘の地に建てられて以来、菊正宗の嘉宝蔵では、江戸時代の昔より伝わる古来の製法そのままに、人の手と時間をかけて生酛造りを守り続けてきました。

コクとキレ。
押し味を愉しむ本流辛口へ。

速醸酛で育った酵母は、発酵の末期に死滅しやすく、死滅すると酒の味を落とす雑味成分を漏出してしまいます。一方、戦乱さながらの生酛を生き抜いた逞しい酵母で仕込んだもろみは、20%もの高濃度アルコールでも酵母がほぼ死滅することなく、雑味成分の少ないきれいな酒質となるのです。その味わいは力強く野性味があり、嫌な甘さが残らず、スッキリとキレのあるのど越しで、まさにこれぞ本流辛口の醍醐味。
旨味成分をじっくりと引き出すことで、香味においても幅があり、奥行きに深い味わいが感じられる、生酛造り特有の「押し味」も自慢です。

押し味 〜総アミノ酸におけるペプチド態アミノ酸量比較〜

ペプチド態アミノ酸量の多さが生酛特有の「押し味」を生み出します。
生酛の旨さは科学的にも証明されています。

江戸の昔より続く
生酛造りを、後世へ。

江戸時代の昔、「寒造り」で醸し出される酒は、良質で価格も最高であったとされます。今なお、身を切るような寒さに凍える厳冬期の嘉宝蔵にて行われる生酛造り。半切り桶や暖気樽など、昔ながらの木の道具は手入れが大変なため、一時アルミや合成樹脂に替えたところ、味が変わり、結局もとの木の桶にもどしたなど、古の知恵の凄さを物語るエピソードは枚挙にいとまがありません。
自然と人の叡智が積み重なって作り上げた奇跡の技を次の世代に遺すために、菊正宗では後継者を育成することはもちろん、他の酒蔵にも製法を広くオープンにし、後世への継承に力を尽くしています。

上撰・本醸造酒を
生酛造りに。

菊正宗はこれまで、丹波杜氏伝承の生酛造りを、嘉宝蔵における寒造りに継承し、特撰クラス以上の限定酒に守り続けてきました。そして同時に、杜氏の勘と舌に頼ってきた生酛造りを、科学的に分析する研究も進めてきました。その結果、生酛造りとは、単に伝統的な手法であるというだけでなく、うまい酒を造る根拠のある手法であることが、科学的に解明されるに至ったのです。
これは、自然を相手とするため安定的に造ることは難しいとされる生酛造りを、大量に安定した品質でお届けできる方法を確立するという大きな成果にもつながりました。
こうした20年来の研究を経て、菊正宗は、当社菊栄蔵での四季醸造への生酛造りの導入を決断。実用化までに3年の歳月をかけ、上撰本醸造酒もすべて生酛造りに転換致しました。