日本酒と肴の相性

「旨いものをみるとキクマサが欲しくなり、
辛口のキクマサを飲むと、旨いものが食べたくなる。」
当社のCMにあるように、お酒と肴は切り離せないものです。
料理の種類、タイプ、または季節の味覚に合わせてお酒の種類や飲み方を変えるのは、
会席料理などでは一般 的に行われていますが、
家庭でもお酒と料理の相性についてあれこれ考えながら飲んでみると、
お酒の楽しみ方が一段と広がります。
この巻では日本酒と肴の相性について、様々な角度から考えてみたいと思います。

日本酒の肴

料理には素材・調理方法・味付け・温度・盛り付け(器)など様々な要素があります。
しかし、日本酒(燗酒)に合う肴には一般的に次のような特徴があります。

箸でつかみやすい、食べやすい

箸でさばけない物はつかみやすくしておく必要があります。
小芋はきぬかつぎに、エンドウは玉子でとじておく

手を汚さない

盃を持つ手が汚れることを嫌います。同様に盃が汚れる(特に油で)ことも嫌います。
カニの姿蒸しは手が臭くなるので、身をはずしておくフライドチキンよりは一口大のチキンナゲットがよい

香りが強くない

中華の香菜やセロリなど、またカレーなども控え目に

味がさっぱりしている

脂っこい、甘辛い濃厚な味付けも少しならよい
刺身、かまぼこ

少量で見た目が美しい

小鉢ものが好まれる
大皿盛りは季節のあしらいなどを使って美しく

パサパサ、カサカサ、ベトベトしていない

てんぷらなどの揚げ物は、外はサクッ、パリッ、カラッとしていて、
内はしっとりしている(ジューシー)

日本酒の味の構成

日本酒の味は甘味、酸味など異なるいくつかの味との調和にあります。 料理の味とお酒の味が互いに影響しあって相性がよくなったり、悪くなったりするのですから、まずお酒の味を構成している成分について考えてみましょう。

1.味の構成成分

  • ・甘味:糖類/甘味アミノ酸/グリセロール・エチルグルコシド
  • ・酸味:有機酸(コハク酸、乳酸、リンゴ酸など)
  • ・辛味:アルコール
  • ・苦味:アミノ酸、チロソール、苦味ペプチド
  • ・旨味:コハク酸、アミノ酸など
  • ・濃さ:糖、アミノ酸、ペプチド、有機酸
  • ・調和・ゴク味:全成分のバランスと口中感

お酒に含まれている様々な種類の糖分、有機酸、アミノ酸などがお酒の複雑な旨味を形作っています。

2.お酒の成分が料理に与える影響

日本酒に含まれるそれぞれの成分は、料理と出会うことで次のような働きをします。

  • ・アルコール:油脂を溶かす、香りを引き立てる
  • ・糖:旨味を作る、酸味をやわらげる
  • ・酸:塩辛さ・甘さをやわらげる
  • ・アミノ酸:旨味を補う
  • ・水分:味を薄める、刺激を弱める

このようにお酒の成分が料理に与える作用と、お酒と料理の温度、香りなどが複雑に影響しあって、相性の良し悪しが決まってきます。

相性の判断基準

燗酒を飲みながら肴としてつまむイカの塩辛は、ともすれば単調になりがちな酒の味に変化を与え、「もう一杯」と、ついお酒がすすむものです。これは燗酒が塩辛の生臭さを消すとともに、塩辛の旨味と塩味が燗酒とぴったりと合ったためです。
それでは相性が良い、悪いとはどういうことを言うのでしょうか。

1.相性が良い

a)味の調和(一般的な飲み方・・・お刺身)

料理を食べながらお酒を飲むことによって、お酒がさらにおいしくなり、また料理の味がさらに際立ってくる。(お酒と料理が互いに補い合って調和している)

b)味を洗う(料理が主、お酒が従・・・鍋物)

お酒を飲むことにより料理の味が洗われ、口中に残るお酒の爽やかさ・旨味が次の料理を、あるいは同じ料理をまた食べたくさせる。

c)味の変化(お酒が主、料理が従・・・塩辛)

お酒の途中で肴をつまむことによって、口中の味に変化を与え、口中に残る肴の味が、とかく単調になりやすいお酒の味をひきしめる(お酒と肴のおいしさを交互に味わいながら、互いに相手の味を引き立てつつ、お酒の旨味を持続させる)

2.相性が悪い

料理を食べながらお酒を飲むことにより、口中に不快な香味が生じる(味のバランスがくずれる)

燗酒×ケチャップ(甘酸っぱさが広がる)
燗酒×レーズンバター(乳脂肪と甘味が広がる)
ワイン×酢の物(酢の味がワインの酸と反発する)
ビール×酒盗(生臭さが強く広がる)

3.どちらでもない 特に変化を生じない

お酒と料理の香りについても相性の良し悪しがあります。
また、料理の器や盛り付けという視覚から感じる部分についても、相性に微妙な影響を与えます。

日本酒と和食の一般的な相性

日本酒と和食は長い歴史の中で互いに「和食に合うお酒」「日本酒に合う料理」として発展してきたものですから、どのようなタイプの日本酒も伝統的な和食の素材・調理・味・香りとは基本的に相性は良くなっています。

  • ● 魚貝類の生臭さを引き出さない
  • ● 醤油、味噌、塩辛、鰹節、昆布、茸、魚卵などアミノ酸の旨味を活かした料理とよく合う
  • ● 冷酒・常温・燗と飲む温度が広く、冷たい酢の物から、熱い鍋物に至るまで料理の温度を選ばない
  • ● 塩分の多い料理から少ないものまで、また薄い味付けの料理から濃いものまで、幅広く相性が良い
  • ● 酢を用いた料理とも、ワインのように味のバランスが崩れることなく、相性は悪くならない。また、ゆず・かぼす・すだちなどの柑橘類の酸や香りとの相性も良い
  • ● 照り焼きや甘露煮のような甘味(特にみりん)のある料理で、お酒のバランスが崩れることがない
  • ● わさび、唐辛子、山椒・しょうがなどの和風の香辛料と良く合う
  • ● 木の芽、しそ、みょうが、ねぎ、三つ葉などの香りの高いものも合う

日本酒のタイプ別・相性の良い料理

日本酒は産地やメーカー、そして純米酒や吟醸酒などの種類によって、香味に様々な違いがあり、それらを組み合わせることによっていくつかのグループに分けることができます。
各タイプのお酒の特徴と相性の良い料理の例を挙げてみました。

ほのかな香りのあるお酒(味吟醸酒)

白身魚の刺身の様な淡泊な薄い味の料理に合う。
合う料理の範囲が狭い。良質のかまぼこ(醤油やわさびをつけずに)が最良。

濃醇なお酒(純米酒)

お酒をじっくりと味わうなら、塩辛、珍味、魚卵など。
鯛のあら煮、ウナギの蒲焼きなども良く合う。

軽くてフレッシュなお酒(生酒・生貯蔵酒)

どんな料理にも幅広く良く合う。脂っこい料理にも合う。
はも皮の酢の物、鶏肉の竜田揚げ、蒸し物など。 ソーセージなどビールのおつまみにも良く合う。

やや淡麗なお酒(本醸造酒)

刺身、焼き魚、おでん、焼き鳥、湯豆腐、鍋物など。
幅広く料理に良く合う。

淡麗で軽快なお酒(普通酒)

刺身、焼き魚、鍋物、おでん、焼き鳥、湯豆腐、冷や奴など。
様々な料理に合う。

木香のあるお酒(樽酒)

和・洋・中の味付けを問わず、香辛料を使った料理や濃い味付けにも合う(意外と中華やフランス料理にも合う)。
豚の角煮、牛肉のおろし和え、長芋のステーキなど。

華やかな香りのお酒(香り吟醸酒)

吟醸酒の持つ繊細な味・香りをじゃましない薄味の淡泊な料理。 相性の良い料理の幅は狭い。
平目の刺身、鯛の酒蒸しなど。

熟成されたお酒(古酒)

濃厚な味付け、脂っこい料理、洋食(肉料理)や中華にも合う。
中華の甘酢あんかけ、オイスターソースを用いた料理など。

甘辛・濃淡・温度などに対する基本的な相性

様々なタイプの日本酒がある中、一般的な分類としては「甘口」「辛口」がよく使われますが、日本酒の甘辛は、ワインでいうスイート・ドライほどはっきりとしてはいません。同様に濃醇・淡麗、香りの高い・低い、熟成の進んだ・若い、などについても他の酒類に比較して狭い範囲にあるといえます。

そして甘辛・濃淡・温度などに対する基本的な料理の相性としては、素材・調理方法、お酒の種類や温度等で異なりますが、基本的な考え方は次の通 りです。

料理の味 料理例 相性の良いお酒のタイプ
甘い 黒豆・甘露煮 やや甘口
塩辛い 塩辛・塩焼き 辛口
辛い からし和え・明太子 辛口
濃い 照り焼き・あら煮 濃醇
薄い 酒蒸し・かまぼこ 淡麗
脂っこい 角煮・鶏唐揚げ 軽い
淡泊 白身魚の刺身・豆腐 淡麗
熱い 鍋物・茶碗蒸し ぬる燗・燗
冷たい 刺身・冷奴・お浸し ぬる燗・冷や・冷酒
乾いた するめ・干魚 冷や・冷酒
汁っぽい 煮付け・鍋物・酢の物 ぬる燗・燗