第6巻 日本酒の歴史(前)

米を使った古代の酒造り

1.口噛み(くちかみ)の酒

飯を噛んで吐き出したものに水を加えておくと、唾液中のアミラーゼで飯のデンプンが糖化され、自然に入り込んだ酵母菌によって発酵してアルコールができ、酒になります。
この 口噛みの酒については、「大隅国風土記」には記載がありますが、「古事記・日本書紀」では見られません。「記・紀」が書かれた8世紀に口噛みの酒の記載がないのは、日常行われていなかったからだと思われます。
口噛みの酒は南太平洋から南北アメリカ大陸にも広がっており、日本への伝播は南方系の島々からではなかったかと考えられています。
原料は必ずしも米に限らず、アワ・ヒエ・トウモロコシ等すべての雑穀が原料でした。

2.神話の酒

我が国での米の酒は、記紀神話(「古事記」上巻 「日本書紀」巻一巻二)にあり、稲・蚕・鉄・鏡等の記述から中国の「魏志倭人伝」(2~3世紀)と同時代の弥生中・後期の頃です。
記紀神話に記載のある酒は、原料が果実や雑穀もありましたが、稲作が定着するに従い、米以外の酒は急速に見られなくなりました。

イ.天の甜酒(あまのたむざけ)[日本書紀]

米麹とカユ又はカタカユ(飯)を一緒に甕(かめ)に仕込んで、糖化発酵させた酒で、アルコール分は低く甘酒というよりは酸味の強い濁酒に近いものだったと察せられます。

ロ.八塩折の酒(やしおりのさけ)[古事記][日本書紀]

米麹とカタカユを仕込み、熟成したもろみを布でこし、粕を取り除いた液に再び米麹とカタカユを仕込みます。
この操作を幾度か繰り返しアルコール度数の高い酒を造ります。
短所としては、もろみの粘度が高いと、しぼるのに時間がかかりすぎることですが、「天の甜酒」よりはるかに進んだ醸造法です。