第8巻 酒と酒器

酒の運搬具

1.指樽(さしだる)

室町時代には板を差し合わせて作った指樽が、タガをはめた結樽が発達するまで使われました。大きさも一升入りから二升位 まで大小のものがありました。指樽は後述の角樽同様祝儀の時に使用されたため、漆器の側面 に家紋を描いたものや、蒔絵(まきえ)の美しいものもあります。

左 黒漆指樽 江戸時代中期
右 らでん指樽 江戸時代後期

2.樽-結樽(ゆいだる)

板を円筒形に並べてタガで締めた結樽は、製樽用のノミ・丸カンナなどが使われるにつれ精巧なものが作られるようになりました。タガは普通 竹を使いました。 室町時代より柳の木で作られた手樽を柳樽と呼び、応永の頃(1392-1427)、京の大酒造家である柳屋が、初めて手樽で酒を売ったと言われています。

3.斗樽-柄樽(とだるーえだる)ほか

室町時代の絵図には、手樽の他に一斗入り位の柄樽より酒を銚子に注いでいる光景が記されています。また江戸時代の守貞漫稿(喜田川守貞が天保8年以来江戸、京阪の風俗習慣を収めた書物)「貸樽の図」に、京阪二、三升あるいは四、五升はこの形を用ふとして図示しています。

漆塗製柄樽 江戸時代

4.角樽(つのだる)

手樽の把手を角のように大きく作り、朱、黒漆などを使った樽で、指樽同様祝い事に使い、容量 は一升から三升位。現在でもご祝儀、祭礼にはこれを飾る風習があります。

角樽 明治時代

5.兎樽(うさぎだる)

角樽の変型に兎樽があります。その名のように胴が丸くて兎のように見えます。漆塗りで、山形・庄内地方では角樽同様祝い事に使われました。

6.四斗樽

蔵元から問屋・酒販店への酒の流通に重要な役割を果たしたのが四斗樽です。 徳利・盃のように飲酒に直接使用するものではありませんが、樽詰した 清酒の香りと味は酒質に影響し、江戸時代より明治・大正・昭和初期まで、お酒と言えば「樽ぞえ」した酒のことであったため、日本人の味覚に及ぼした影響は計り知れないものがあります。 今や忘れ去られた杉の香り、即ち木香を枡酒で、門出の酒として楽しむ酒徒はなお数多いものです。
樽は吉野産の杉材を使用するのを最上とし、材質により甲付樽・赤味樽の二種類があります。

詳しくは「樽酒/おいしさの秘密」をご覧下さい。