第8巻 酒と酒器

徳利(ニ)

徳利には、先にご紹介したものの他にもいろいろな種類があります。

a)貧乏徳利・貧乏樽

江戸後期より明治・大正にかけて、酒販店から消費者への運搬容器として、ガラスの一升瓶が普及するまで長く使われました。酒屋の貸徳利・貸樽です。
貧乏徳利には酒銘・酒屋の名前が記されており、消費地区ごとに徳利の型・産地が決まっていました。丹波・高田・有田が貧乏徳利の三大産地です。
一升瓶詰と樽詰酒の比が50%を越えるのは、灘で昭和の初め、全国では昭和12年頃からと言われていることから、貧乏徳利は昭和の初めも広く一般 に愛用されたことが分かります。

  • 左より
    貧乏徳利(有田焼)大正時代
    貧乏徳利(高田焼)大正時代
    貧乏徳利(大谷焼)大正時代
    貧乏徳利(丹波焼)大正時代

  • らっきょう徳利(丹波焼)
    明治時代

  • 左 舟徳利(丹波焼)大正時代
    右 舟徳利(苗代川焼)明治時代

b)らっきょう徳利

ふっくらとした姿によって名付けられ、特に小型のものは懐石などでお預け徳利として趣味人に愛好されています。

c)舟徳利

底部が広く重く出来ていて安定感があり、舟で使われたと言います。

d)傘徳利

和傘のような徳利。

e )ろうそく徳利

和ろうそくの形をした徳利。

  • 左 浮徳利(丹波焼)大正時代
    中 傘徳利(丹波焼)大正時代
    右 ろうそく徳利(丹波焼)大正時代

  • 左 えへん徳利(丹波焼)大正時代
    中 きき酒徳利(丹波焼)大正時代
    右 こま徳利(丹波焼)大正時代

f )えへん徳利

徳利の酒が底をついた時、「えへん」と咳払いをして注げば、たらたらと滴るというありがたい徳利。

g )きき酒徳利

酒の売買の時、きき酒用の見本を入れる徳利。筒書(つつがき)で地名・店名を示しています。

h )こま徳利

和ごまのような形の徳利。

i )へそ徳利

おへそのようにくぼんでいます。

j )鴨徳利

いろりの床に鴨徳利を置き、直接燗をしました。

  • 遊山用徳利 江戸時代後期
    錫製瓶の外側は保温綿

  • 瓢型徳利(九谷焼)
    江戸時代後期

k )遊山用燗瓶

錫の徳利(瓶)に燗酒を詰め、保温容器に入れて遊山に使用しました。

l )瓢形徳利

ひょうたん形の徳利で、酒を注ぐと「トクトク」という音がします。

m )輸出用徳利

酒を酌み交わす徳利ではなく、酒の輸出に用いられたものです。コンプラドール(商人)の略で、コンプラ瓶または金富良瓶と呼ばれたり書かれたりします。明治時代に伊万里焼で図柄の良いものが、アメリカ向けに輸出されました。二合~四合入ります。

左 コンプラ瓶(波佐見焼)江戸時代後期
右 米国向け輸出徳利(伊万里焼)